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第二十章;「此処ではない場所」


 訃報を知って一夜明けた。電話のベルで目覚める。生きている僕らにはまた朝が訪れる。こうして日々はまた続く。日はもう既に昇っていた。スープを温め、壁に凭れてぼんやりと飲む。光射す部屋の窓の向こうに見える幾つものビルの影を眺める。その間、Boards Of Canadaの音が静かに流れている。如何なる気分をも邪魔する事のない、ただそこにあるだけの旋律──幾つもの粒子が溢れ出すような流動的な音だった。支度を済ませ、歩いて駅を目指す。電車に乗る。友人が生きていた町へと向かう為に。ご両親に挨拶をし、それから空っぽの部屋の前に立つ──もう、居ないのだ。そして、どの場所にさえも居ない。自分だけはその真ん中に居る。実感が伴わず、途方に暮れる。それからまだ埋葬されていない墓地へと車で案内して貰う。これから友人はそこに落ち着く事になるのだ。花を手向ける。見上げた空は冬の色をしていた。美しく鮮やかなグラデーションだった。何枚か写真を撮る。息を吸い込んでもう一度墓地を振り返る。哀しく、優しい目をしたご両親と目が合う。それから、共に墓地を後にする。

 車の中では何も話せなかった。食事を薦められたので礼を云い「ちょっとその前に写真を撮ってきます」と短く挨拶をし、車を降りて歩き出す。一人になりたかった。以前、何度か友人と共に散歩した道を歩く。もう駄目だった。ファインダーを覗き込んでも何も見えなかった。視界が歪んで、腹が立った(泣く方法なんかとっくに忘れていると思っていた)。諦めてマフラーを巻き直し、空だけをただ見上げて歩く。誰のものでもなく、一切の意味すら湛えない広がりがある事に無名の感情を改めて覚えていた。
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