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第十二章;「青い血」


 外を歩いていたら、大火災だった。猛スピードで炎が迫ってくるのが見えた。黒煙が喉に噎せるので、意識を実家のクローゼットに飛ばしてタオルを取り出した。道行く人々が激しく咳き込んでいる。その度にクローゼットへ意識を飛ばしていたが、追いつかないので、引きだしごと取り出して空にタオルを一斉に飛ばす。人々が群がる。タオルは濡らさないと意味ないんで、濡らしてください、と指から水を出す。涙で髪が頬に貼り付いた女の子達が次々と手を伸ばす。泣いてるだけじゃどうしようもないから、ちゃんと走らないと駄目だよ、と空中を斜めに走って誘導する。自分だけが早い。商店街の一軒ずつのガラス戸を激しく叩く。中ではのんびりと雑誌を読む人やパーマをかけている人達が見える。こんな惨事に気付かないなんてどうかしてる、とガラス戸を叩く。それから、さっさと逃げればいいのにこんな事をしている自分にも疑問を持つ。怪訝そうな顔で中年女性が鍵を閉める。この人達はうまく逃げ延びる事が出来るのだろうか?雑居ビルの吹き抜けの下で、仲間が会議をしていた。合計80人ぐらいに増殖している。何やってんだろう、取り敢えず回転ドアを押し、入っていく。「今から新しい副部長決めるんです。いいですか?」と髪がアッシュの女の子に云われる。こんな子、俺等の仲間に居たっけ?とぼんやり考える。何だろ、新しいメンバーだろうか。「今の副部長はみんなが不審に思ってるんです。でも、XXさん(僕の名前)はこれからも皆を纏めて下さい」と云われる。いや、それどころじゃないよ。早く逃げないと、とタオルをまた空中散布する。吹き抜けには轟音のトランスが鳴り響いていて互いの声など聴こえない。

 意識を実家に戻した。家には誰もいない。部屋中の雨戸を開ける。和室には何かが潜んでいて、自分はそれを光で照らそうと部屋に入る。が、何もいない。二階に駈け上がって、半分がフローリング、半分が畳になっている部屋に入る。顔を拳で払うと、すすだらけだった。壁にずるずると背中を凭れ、しゃがみ込んで足を伸ばす。それから床に散らばった食器の破片を眺めながら、オナニーをする。窓の外で声を蒔く小鳥の姿を眺める。果てそうになった寸前で手を止めて深呼吸をし、破片を握ったまま階下へ降りる。指からは青い血が断続的に流れ落ちている。玄関で父親が立っていた。半分笑っている。見られたのか?と思いつつ平静を装って、久しぶり、と挨拶する。呼吸が乱れそうだ。「この家は売るからあと三日で物を処分しろ」と云われた。うん、そのつもりで戻ったよ、と自分は頷く。母親が窓からゲル状になって入ってくる。父親にはその姿は見えていないようだった。指の痛みと共に、黒煙の町へ仲間を残して来た事を思う。皆、無事なんだろうか。自室に戻って荷物の整理をする。全てのものが次第に青く染まっていく。指の痛みはもう感じない。
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