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第十一章;「松戸シェラ」


 寝たら起きた。夢の中で自分は「松戸シェラ」という名前で呼ばれている白いオッドアイの猫だった。15歳くらいの制服を来た女の子に飼われていたところを見ると、恐らく彼女の名前が松戸さんというのだろう。松戸シェラは走っていた。町は灰色の石畳で、空は薄い青だった。“水色の何か”を口に咥え、何か急いでいる様だった。「シェラ!ちゃんと帰ってくるのよ」と背後から呼ばれたが、振り向きもせず路地を駈け抜けていた。路地裏には無数の猫がいた。最初に出てきたのは灰色の猫で、グリーンの目をしてこっちを見ていた。鼻先を摺り合わせて挨拶をして、それからまた走った。「おまえ、そんなに何を急いでるんだ?」と闇から声がする。「わからない。とにかく急いでる」と松戸シェラは答えた。“水色の何か”を何処かへ運ぼうとしていたのだ。途中、それを誤って落としてしまい、探していたがどうしても見つからなかった。諦めて屋根に登り、遠くの景色を眺めながら、あれは何だろう?と考えていた。観覧車だった。どうやら松戸シェラは人間の意識と猫の意識が時々混ざり合ってしまう様だった。ゆっくりと廻る観覧車を何だか懐かしい様な、少し畏ろしいような気分で眺めていた。

 ──と、ここで目が醒めて考える。何かに似ているなあと思ったのだ。ああ、あれだ『猫の恩返し』。

 寝たら起きた。三回。切れ切れの眠りの理由は気温と猫に因る。外はイタリアを南下した時を思い起こさせる抜けるような青空で、多分、今日の夕陽もアホみたいに映えるんだろうなと考える。食う物が何もないのでオレンジジュースを一杯飲む。タイの安っぽい再生ガラスに沈むオレンジを眺めていたら睡魔が襲ってくる。メシアンとシュトックハウゼンとクセナキスのあと、クープランの「修道院のためのオルガンミサ」を流し、それからバロックとやけに楽しそうなピアノを聴く。その間、世界の本日付の新聞(*)をざっと眺める。BBCとCNNとロイター通信をハシゴして読売と朝日とブログニュースとWIRED NEWSを眺める。昨日から窓ガラスに一匹の蜘蛛がいて、似たような動きを繰り返している。人間も上から観たら似たようなものなんだろうと考える。
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