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第七章;「ドライトマトのオリーヴオイル漬け」
深夜、ミライと話す。あれ?今日は渋谷に行ったんじゃなかったっけ?と訊ねる。こっちの友達も何人か行ったよ。愉しめた?「全然。不愉快な思いをしたから帰ってきた」──そうか、愉しめなくて残念だったね、と相槌を打つ。元々この日はクラヴのゲストアカウントが取れるから、一緒に行かないかと誘われていたのだったが断っていた。ミライは一人だと詰まらないから行かないと云っていたが、行く相手が見つかったんだろう。「ラファってイタリア人の子と行ったんだけど、ええと、彼女がイタリアに帰ってるときに知り合ったマリオって男の子も来てて。で、マリオと親しく挨拶したら、その後、みんなで乾杯する時に更に別のラファの友達の超ヤなやつ──フランチェスコって男なんだけど、みんなにビールを振る舞ってたんだけど、あたしだけ用意してくれなかった。ほんとアタマ来たよ」──ええと、何?ちょっと云ってる意味がよくわからない。「もう!だーかーらー、とにかくフランチェスコって男があたしを除け者にしてみんなで乾杯しようとしたの!でね、マリオが乾杯の前に『待って、ミライのドリンクがないじゃん』って云ったら、ラファとフランチェスコや、その取り巻きは、無視してたの!」──へえ、それは失礼な話だね。「でしょ。一人でビール買ったけど、気分悪い」──ああ、女一人で来てるミライをスルーしたって事?何かフランフラン君は気が利かないね。「マリオって、なんだろう、愛情深い人だから、安心して人間苦手な私も『マリオー』って犬と接するように、テンション高くなるんだ。 ──誰、フランフラン君って?」──ああ、ええとフランチェスコだよ。勝手にあだ名つけた。「フランフラン君!そんなのかわいすぎる。はー、なんていうか、男女を意識するイタリア人には、あたしのことが気に食わなかったみたい」──じゃあバイセクシャルとかブッ殺されるな。今夜は行かなくて良かったよ。危なかった。「というかあたし、フランフラン野郎に『君は秘密をもってるでしょ』っていわれた」──ん?どういう事。『君、レズでしょ』だって」──あはは。何で?「他の人にも、君は、レズビアン?って聞かれたことがある。何なの一体」──と云うかさ、失礼だよ。そういうセクシャリティを直球で訊くとは。ノンケであろうとなかろうとさ。本人が話したいならともかく。「でしょ?頭に来た」──自分だったらスルーするな。離れる。「ばりばりノンケなのに、どうしてだろう。女子校育ちだからかなぁ。幼い頃男のことばっかり遊んでたからかなぁ」──ミライの英語がさ、ほら、ブルックリンに住んでた時、男っぽいとか皆から指摘されてたとか云ってたよね。ゲイの男とずっとアパートをシェアしてたからって云ってなかった?それ、関係してるのかもだよ、単純に。ああ、じゃあさ、スペイン語で話せば良かったじゃん。英語よりは曖昧になるかもだよ。「駄目だよ。今日のはオランダ人とイタリア人とドイツ人だもん。英語っきゃなかった」──そうか。「耳の痛いこといわれるのは、自分のためになるから嫌いじゃないし、議論とかも好きだけど、幼稚じみたイジメっぽいのは、ほんと嫌」── 何かまあ相手にも理由あったかもだし。いい大人がそんなあからさまな事をするってことは。もしかしたら、何か自分も相手にそういう気分にさせたのかもな、と自分なら考えるね。理由なく得体の知れない行動は取らないし、人は。「そこ、私って存在が何か人に、アレルギーを起こさせてるのかなぁ」──さあ、わからないね。でもまあ、そうであろうとなかろうと、気に病んでも仕方ないね。どう解釈されようと、ミライはミライでいいんじゃないかな。気の合う人と会えばいいだけの話だよ。「気の合う人ってのが、難しいね、音楽のうるささとかを理解してもらえないし、やな思いするし。あー、フリークと遊ぼうかな。」──フリーク?何の?「フリーク君は、ロンドン在住のドイツ人。ぜんぜんsexyじゃないし、かっこ良くないオタク。でもやさしいんだ。刺身仲間なの」──刺身仲間の意味がさっぱりだよ。「小さな魚屋に買い出しにいって、二時間かけて刺身を食べたの。ようは、食freak。だからフリークって呼んでる」──はあ、そうなんだ。「やっぱり、ちょっとつまんなくても、へんで穏やかな人がいいのかなぁって思った。楽しいとか幸せって感覚がよくわからないから、苦しいんだ。時々。寝た次の日すっぽかされたり、二股かけられたり、一緒に住んでた人とは、幸せだと思ったけど、自分がどんどんやつれていってたし。ひとりはいやだけど、確かに人恋しくて、大勢の中に行くと、疲れる」──なんか、万華鏡のような日々だね。「あー、なるほど、きれいだけど、ぐちゃぐちゃ。遠くからみるのはいいけど。さてっと、本読んでくる。嫉妬の本。面白いよ。嫉妬される立場にいるようなフランスの著名人にインタビューしてるの。フランス語あんまり得意じゃないけど頑張って読んでる。なんかべらべらしゃべっちゃったね、聞いてくれてありがと。へこみが平らになってきた。9月末か、10月のはじめに仕事落ち着いたら遊んで。元気あったら、軽く何か作るよ」──うん。そうだね。じゃあお土産にドライトマト持って行くよ。パスタにすると美味い。アホみたいに簡単だし。「えー、教えて!パスタは、何ミリがいい?用意しとく」──何ミリでも。あとは塩だけでいいよ。「へえ。ドライトマト死ぬほど好きだけど、料理できない」──全部込みの瓶詰めなんだ。ドライトマトのオリーヴオイル漬けに、ニンニクにハーブにケーパーも入ってる。なので、味付けもいらない。アホでもシェフになれる。超絶美味くてさ。これが。「瓶詰め内容聞いただけで、涎出てきたよあたし。眠れるかな」──うん。瓶の夢でも見るね。じゃあ瓶持参って事で。おやすみ。
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