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第五章;「飛び散った砂を集めて鉢に入れる」


 寝たら起きた。というか、寝ようとしたら空腹で眠れなかったので、台所で立ったままカロリーメイトを食べた。読書二冊。後は雑誌をざっと読む。昼前にチャイムで起こされる。ぼんやりと立ち上がり、モニタを覗くと女が立っていた。制服で。三秒ほど考えて無視してまたベッドに戻る。ゲルの如く眠りたい。猫二匹に囲まれて、しばらく微睡む。外は物凄い風で、ベランダの鉢植えが落下していた。可哀相な事をした。風に煽られながら、飛び散った砂を集めて鉢に入れた ──繰り返す。髪が滅茶苦茶になった。立ちあがっていつものあの場所に目を凝らす。白猫の姿はなかった。メールのレスを書き、Patchouliのお香に火を点けた。パチョリはインド産のハッカで、何とも不思議な香りがする。記憶を擽られる香りとでもいうのだろうか。二本点けて、それから友達から貰った謎の香りのやつを点ける。匂いを嗅ぐと色が浮かび、煙と共にゆらゆらと消えていった。黒いTシャツから白いTシャツに着替える。やけに甘い色をした海の向こうの夕陽の写真を貰う(Rはそれを“沈むいちご"と呼んだ)。窓の外の太陽は姿を見せず、灰色のドームを東京上空に描く。

 夜中に水ばかり飲んだ。何度飲んでも乾くから面倒になった。プールに浸かったまま眠ったらさぞ心地いいだろうと考えながら寝返りを打った。ここ最近は窓から入ってくる風がいい感じになってきた。本当に夏はもう終わりなんだなあと思ったら何だか寂しい気分だ。シガーロスとレディヘとスマパン聴きながら空の画像を整理する。電子音ばっかり浴びてたので、たまにはロックを。ビタミンのタブレットを囓りながら、メールを書こうとするも、まったく書けない。諦めて投げ出してベランダでぼんやりする──いい身分だ。テーブルの上に転がしていたケータイのランプが光っていて、それは見知らぬ番号からだった。しかも留守録が入ってる。再生すると全然知らない女の人の声が聞こえてきて、おまけにそれは小さい声で、何を話しているのかさっぱり解らなかった。途方に暮れてしばらくオレンジのランプを眺めていたら、あの夜、広場でやった線香花火の光とカブった。それは小さくて頼りない色をしていた。

 ──ミライは誰かに似ている。昨日、メッセンジャーで会話した後、そんな事をぼんやりと思った。一緒に仕事をしていたあの頃はそれを感じなかったが、今は違う。文字だけを追っていると、常に背景に誰かの面影のようなものを感じた。誰だろう?──現実には存在しない人物かも知れない、そう思うと何だかおかしな気分になった。
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