| 遠くへの道標 後編 Presented by.UMI ―四日目― 自分がそこにいることを確かめるようにまばたきすると、は起きあがった。 ――頭痛が酷い。 頭をさすると、手がコブに当たった。 ジーンと痛む。 今日もゼノンの家へ行かなきゃ、と重い身体を無理矢理ベッドから降ろし、ドアを開いた。 そこには、背の低い一人の男がいた。 目はかなり大きく、鼻が長い。頭はつんつるてん。服は黒い礼服だ。 が見るには、かなり辛い外見だった。 森を駆け抜けるの背後に、一つの気配が生まれた。 タタン……タタン……タタン……と、一定のリズムで駆けるその足は、を追っているようにも聞こえる。 勇気を振り絞り、は後ろをちらりと見る。 それは、舌を出して走る狂犬だった。 ――魔物! フェルズやゼノン、ゲインとは違う。 その狂気じみた顔で、そいつはニタリと笑った。 の背筋が凍る。 逃げなきゃ。逃げなきゃ! 目に涙を浮かべ、普段では考えられないほどのスピードを出し、突っ走る。 が……、その努力も虚しく、すぐに追いつかれてしまった。 そいつは腕に噛みつき、引きちぎろうと首を激しく振る。 は悲鳴を上げ、転げ回った。恐怖に満ちた表情で腕を振るが、狂犬はの腕を持っていく。 「ぼくの……うでが……」 右腕の肘から先が、なくなっていた。 切断面には、真っ赤な血が滴っている。 は、その場で呆然とする他なかった。 死ぬんだ。 そう悟った。 フェルズは、濃い血のにおいを感じていた。 ここに人間は、一人しかいない。 もう、バベルという悪魔はいない。 この条件が揃った環境で、今何が起こっているか。 一つしかなかった。 フェルズは血のにおいを追い、走り出す。 唇をかみしめ、一筋の汗が頬に流れる。 のもとへは、近い。 ようやく辿り着くと、そこには既にゲインの姿があった。辺りには、ぼろぼろの骨付き肉が転がっている。 咄嗟に、木陰に隠れた。 そして気がついたのだ。 フェルズは無意識に、あの少女とを重ねてしまっていることに。 うっすらと目を開けると、は身体がふっと軽くなったような、そんな感触が神経を伝わっていった。 の瞳には彼の首と髪しか映らなかったが、それでもそれが誰なのかが容易に分かった。 ――助かった。 そう思うと、再び目を閉じた。 気付けばは、寝台の上で寝そべっていた。 ――ここはどこじゃけんのぅ……? と辺りを見回すと、薬品やらなにやらで囲まれていることでゼノンの家だとわかる。 ふと横を見ると、ゼノンが右腕をさすっていた。 ウデ。 の記憶によれば、肘から先がちょんぎれているはず。 だが、それは確かに存在していた。 何かで縫いつけたわけではない。 接着剤でくっつけたわけでもない。 そこがトカゲのしっぽのように生え替わったような、そんな感じだ。 そのときは、ハッと気がついて半身を起きあがらせ、ゼノンの手を払い、しげしげと腕を見つめる。 特に変わったところはない。 そして、が行き着いた結論はここだった。 「セクハラ!?」 言われたゼノンはニタリと微笑んだ。 「ククク……、そう見えるかな?」 「うあマジなんでしか」 とが小声で言ったとき、ゼノンは真顔になって反論する。 「そんな訳がないだろう。腕の調子はどうだね?」 「いっ、いつも通りですかど……」 「なるほど。――良かったな、ゲイン」 ぬっと玄関から出てきた魔物は三流吸血鬼ことゲインその人。 「まぁ、な。どうだ? 我が下僕となった気分は」 はキョトンとして口を開ける。 「あの……ぼく、あなたの下僕になった覚えはありなせんよ?」 「ふっ、言いにくいことだとは私も思うがな、はっきり言わせてもらう。 私はお前の血を吸った。だから今日から下僕」 「ち、ちょっとまってくだせいよ! どうして血なんて吸ったんで……?」 「お嬢さんを助けるためさ。私が素早く止血していなかったら、君は既に死んでいた」 「血を吸うことがどこをどうすれば止血につながるんでしかっ!」 的確に突っ込むに、ゲインはうーん、と唸った。 「やはり……ここら辺か?」 とんとん、とのうなじを指でつつく。 「わけわかりまさんっ!」 「おそらく」 ゼノンはとゲインの会話に割って入った。 「人間の血に吸血鬼の血が多少混ざり、反発作用での肉体に治癒を与えた――。実際のところは違うかもしれないが、 そんなところではないか?」 パチパチパチ、と拍手を送るゲイン。 「その通り」 「ならあんたが説明せんと」 再び突っ込み。しかしゲインは完璧に無視した。 「さぁ、我が家へレッツゴぅ」 言うとの手を引いた。 「なっ、なんででしか!? ちょ、ゼノンたすけっどうして哀れんだような顔で手を振ってるんだすか!! まっ、放せーー!!」 の叫びも虚しく、ゲインはズンズン歩き出す。 トマトのもとへ。 その日の深夜のこと。屋敷前には二つの影があった。 小さな影と大きな影は、ひそひそと話し合っている。 「だからあのお嬢さんは怖がりだから姿見せるなって……」 「申し訳ございません……こちらの不注意で……それでフェルズ様の様子は、変わりありませんね?」 「ああ、大丈夫だ。フェルズは今だお嬢さんのことをに肉だと思っているしな」 「ではフィンベル様に報告します。引き続き調査を……」 「わかってる」 二つの影は、互いに離れていった。 ―五日目― 昨日の夕食はトマトだった。 今日も絶対にトマトだろう。 ベッドから起きあがると、は真っ先にトマト菜園が目に入った。 今は新鮮だから良いだろう。 だが、これが明日も明後日も続くとなると、いい加減飽きてくるのではないか? は頭を抱えた。 ゲインの下僕になぞならなければよかった。 どうして今はゲインの家に住み着いているのかというと、 「人間以外泊める気ないです。お引き取り下さい」 らしい。 どうやら下僕でも魔物扱いのようだ。 もう一つ、には問題がある。 今日目覚めてみると、昨日の記憶があまりなかった。 つまり、ゼノンの家で目覚める以前の記憶があやふやなのだ。 これには首を傾げた。 いつどうやって下僕になったのか、一体何があったのか。 不気味で仕様がない。 だがしばらく考えていると、どうでも良くなってきた。 今は婚約者のいた身でありながら男と一緒に暮らしていることの問題に目を向けるべきだと思えてきたのだ。 と結論を見いだすと、ゲインの声がの耳に入る。 「お嬢さん、食事の準備を手伝ってくれ」 「はい、かしこまりました」 言って素早く起きあがりドアノブをまわす。 そして気付いた。 「なんでぼくがこんなかしこまらにゃならんでしかっ!?」 自分のゲインに対する態度がメイド同然になっていることに。 叫んだ後、ゲインが部屋へと入ってくる。 「当たり前であろう? 『下僕』なのだからな」 「こんなことになるなんで聞いてないがすよ!」 「心配しなくとも、選択形式のものであれば解答の選択権はある。心配せんでも」 「今の確実に命令形式ですたっ!」 「だから……」 そのとき、ゴンゴンゴンゴン、と激しくドアを叩く音が二人の耳に入った。 「ほら、騒ぐから近所迷惑になってしまったではないか。接待を頼む」 「はい、かしこまり……」 言いかけたところではゲインをキッと睨み、ずんずんと玄関へ向かっていった。 しかしは寝室を出たところから玄関が見えるのに、ふらふら〜っと手前のドアへと向かう。 ゲインからストップがかかるがきかない。 かちゃり、きぃ、かちん。 は辺りをみまわす。すると、一冊の本に目が止まった。 日記のようだ。 ――これで秘密を見抜ければ下克上も夢じゃない。 そんなワルい心を持ってはパラパラとページをめくる。 あるページに気になる文章を発見。 『○月×日 なんという名だったか。前来た少女の後始末をすることになった。 面倒だが仕方ない。 狼男のストーキングなぞやりたくないのだがな。 しかし、やはり不審な行動が目立つ。 魔物らしい活発さがない。 オルバートに報告しようか…… ○月▽日 狼男と試しに話してみた。 なかなか面白いやつだ。向こうは我を気に入らなかったらしいが。 よし決めた。 私は奴を生かすぞ。 ○月□日 面倒なことに、少女を一人森に入れフェルズの反応を見ろ、ということになった。 魔王の命令だ、仕方ない。 私は通りすがりの少女のバンダナを飛ばし森に入るよう仕向けた。 が……。 あの少女、どこかで見たような』 ドアが叩かれていることに気が付いたのは、一通り読み終わったあとだった。 ――そういえば鍵かけていたような気がしないでもないだす…… は鍵を開け、叩いている張本人・三流吸血鬼ゲインと肉好き狼フェルズを迎え入れた。 「はぁ……っ、引き出しの中身は見なかっただろうな!?」 「え? う、あ、いや、見てないです」 「本当か!?」 「本当でし!」 「見てないんだったらいいんじゃねぇか?」 フェルズがなだめるように言う。ゲインは「ごほん」とわざとらしい咳を一つ吐くと、に言った。 「それならば良い。以後この部屋に入らないようにしたまえ」 「急に偉そうになりますたね……」 「お嬢さんこそ、我が脅したときは大人しかったくせに、今となってはどこかに置いてきてしまったではないか」 「ぼくはもう死ぬ覚悟が固まっているからいいんでし!」 「もういいじゃねぇか、終わったことだしよ。ところでゲイン」 「なんだ」 「肉、ないか? オレ腹ペコなんだ」 甘えるようにフェルズは言った。 肉があるかもしれない。 そんなゲインの言葉で居間にやってきた三人組がどこかに肉がないか探していると、がふと思い出したのか、ぽつりと言い出した。 「そういえば、ぼくの荷物の中に干し肉が……って、いつの間にかどこかに行ってしまったんでしか」 「うむ? それならば私が預かっているぞ」 「なんででしか!!」 問うに、ゲインは口を濁す。 「いや、まぁ、その……色々あってだ。取りに行くから待っていろ」 言うと、そそくさと逃げるようにゲインは奥の部屋へと向かっていった。 一体何があったんだろうか。 少しだけ疑問がよぎるが、フェルズの嬉しそうな笑顔を見るとそんな考えは即座に忘れられた。 しばらくして、ゲインが戻ってくる。 「これだな?」 チューリップのアップリケ付きナップザックを持ったゲインが現れた。このミスマッチさがステキだ。 「それだす」 の返事を確認すると、ゲインはナップザックを放り投げた。はとまどいながらもキャッチ。 がさごそと中身を物色し、一つの小袋を取り出した。 「干し肉でし」 差し出すが、フェルズはボーっとしたまま動かない。 「フェルズさん!」 大声で呼びかけ、フェルズはハッと気が付いた。 「あ、ご、ごめん。ありがとう……な」 受け取っても、ボーっと干し肉を見るのみだ。 「食べないんでしか……?」 そっと顔を覗いて訊くと、フェルズは慌てて言った。 「た、食べる、ぜ」 はむ、と口にする。 しかしまたもそのままストップ。 「フェルズ!」 見かねたゲインが言った。 「忘れろ、あのことは」 「……」 その後、フェルズは寂しそうに、トボトボと去っていった。 ―六日目― 明日、やっと家に帰れる。 帰ったら父さんと母さんに、ごめんって謝ろう。 そしたら真面目に仕事して、心配かけないようにしよう。 はこしこしと目をこすりながらそう考えていた。 「ちょっと、訊いていいでしか?」 ゲインはトマトをフォークで突き刺し、はむっと口に入れる。 「ふぁんあ」 「この森から出ても、僕はあなたの下僕なんでしか?」 「んぐっ……、安心したまえ、吸血鬼の血は陽光に弱い。君が人間の世界に戻れば元通り、ってわけさ」 「じゃあ、もしかしてあなたも人間の姿のまま森から出れば……」 「そうはいかない。私は完璧な吸血鬼だからな。お嬢さんは人間の割合の方が多いであろう?」 「なるほど……。それでは、ごちそうさま」 「もう食べないのか? まだ残っているではないか」 テーブルには、ずらぁ〜りと並ぶトマトの山。 もう、は一口食べるだけで腹一杯だった。 すたすたすた、と去っていく。そんな後ろ姿を、ゲインは心配そうに見つめていた。 ――あんなにトマトを食べさせられたら、誰だって飽きますよ…… はうぅ、と溜息をついて、トマトの菜園をじーっと見つめる。 「こうして実っているところを見ると、美味しそうにみえるんだすけどねぇ……」 座り込み、膝に肘を乗せ頬杖をついた。 ――早く家に帰りたいなぁ…… そう一心に思っていると、どこからともなくフェルズがやってきた。 トマトのような顔色でを見ている。 「なんでしか?」 いつもの子どものような顔でなく、真剣だった。 「……あんな奴のところにいないで、オレのところに来ないか?」 「なんで、でしか?」 は首を傾げる。 「だってさ、けっけんか、してるし。それに」 「それに?」 「オレはお前が好きなんだ!」 フェルズの顔は、熟れた。 トマト菜園の葉が、ざわざわと音を立てて揺れる。 の顔は、充血し……てはいなかった。 いたって冷静な表情でフェルズを見据えている。 そして、は口を開く。 「ごめんなさい。ぼくには、好きな人がいますから。もう会えないかもしれないけど……、ずっと前から探している、ぼくの許嫁がいるんです」 たどたどしい口調で、言った。 フェルズは少しだけ悲しそうな顔をしたが、すぐいつもの顔になる。 「そうか……それなら、仕方ねぇな、へへ」 しかし、フェルズの目から次々と流れ落ちる、涙。 それはまるで、少女と過ごした一週間とと過ごした一週間を洗い流しているようだった。 「……ごめんなさい」 再び謝るにフェルズは涙を腕でゴシゴシとふき取りながら言う。 「気にするなよ、オレこそいきなりこんなこと言って……。明日、無事に帰れるといいな」 元気良く微笑むと、フェルズは走り去っていった。 その背は、寂しさに溢れていた。 「こんにちは」 きぃ、と扉を開けた先に、ゼノンが椅子に座りハーブティーを嗜む姿があった。 「ククク、久しぶりだな」 ことん、とテーブルの上に置くと、椅子ごとに体を向けた。 「ゲインとは、仲良くやっているかな?」 「喧嘩するときもありますけど、そこそこ」 「なら良かった。それで、ここに来たということは何か用があるのではないか?」 「いえ、あの……お別れを言いに来たんだす」 「なるほど。ククク……、私も解剖の一つくらいはしたかったのだが、帰ってしまうのでは仕方がない」 「うっ、ほ、本気でそういって」 「もちろん、本気だ」 そのとき、ゼノンの眼鏡がキラリと輝いた。 ――キケン、キケン の頭に、脳内警報が鳴り響く。 ――もう本気で駄目だす…… こうしては、行動不能に陥ったのだった。 ―七日目― 出口は、フェルズの案内ですぐに見つかった。 その部分の空間はぐにゃりと曲がり、大きく口を開けた先には、あの田舎と都会を繋ぐ街道が待っている。 は不思議と、たった一週間しかこの森にいないにも関わらず、その街道がとても懐かしいように思えていた。 ――思えばあそこでバンダナが風に流されたときから、始まったんだっけ。 最初の頃はとにかく叫んで気絶しまくったが、今ではなんとか気絶だけで済んでいる。それだけでも大きな成長だろうか。 ちなみに、この場にゲインはいない。なにか込み入った用事があるようで、部屋にこもったまま出てこない為放っておいたのだ。 は気になって仕様がなかった。 別れの挨拶の一言でもしたい、と心の底から思っているからだ。 「……遅いでしね」 つい言ってしまったとき、丁度ゲインがやってきた。 息づかいが荒い。 「フッ……、待たせたな」 ゲインは気取るような態度をとると、フェルズに言った。 「すまないが、席を外してくれないか? お嬢さんと、大事な話があるものでな。カトリィヌ、フェルズを送ってやりたまえ」 パタパタパタ、とやってきた一匹のコウモリ。 「美味そうだな!」 フェルズは見た瞬間、ヨダレを垂らしてそう言った。コウモリはビクリと体を震わせる。 「それは我が下僕だ、食われれば困るから絶対に食うな。片翼でも傷つければ、貴様は瞬時に我が下僕となりえるであろう」 「わかったよ、……食わない」 膨れっ面でフェルズが去っていくと、ゲインは「ふぅ」と息を吐き、に向き直った。 「遅かったでしね」 「すまないな、捜し物があったもので」 「そうでしか」 は返事をすると、頭に巻いているバンダナを外し、ゲインに差し出した。パサリ、と髪が肩に落ちる。 「返します」 ゲインはバンダナをとまどいながらも受け取ると言った。 「……いつから気付いた?」 苦笑する。 「最初からうすうすと。もし最初に聞こえてきた声が貴方のものでなかったら、こんな薄暗い森入ってましんよ」 「そうか。……私からも、返したい物がある」 言って手を開くと、可愛らしい花のついた髪飾りが収まっていた。それを差し出すと、は手に取った。 「……久しぶりでしね」 「そうだな」 ゲインの返事を確認すると、髪飾りを頭に取りつける。 「おしゃれなんてあまりしなかったんでしけど、似合います?」 「フッ、あまり似合わんな」 言うと、今度はゲインが頭にバンダナを巻いた。 「似合うか?」 「似合いません」 二人は、笑った。 長くて短い一時を、喜んだのだ。 「……なあ」 ふと、ゲインは話を切りだした。 「ここに、とどまらないか……?」 真剣な目でを見つめる。 しかしは、 「いいえ」 と首を振った。 「本当にとどまらないつもりなのか? ここから外に出れば、お嬢さんの右腕はなくなるのだぞ」 「右腕が、なくなる……?」 「ああ。君の右腕は、下僕になる前狼によって噛みちぎられた。今ある腕は吸血鬼としてのものだ。陽光に当たれば消えてしまう」 かたかたとの手がふるえるが、きゅっと両手を握りしめると言い出した。 「ぼくは、お父さんとお母さんの方を取ります」 「そうか……」 「さよなら、でしね」 「そうだな」 しばらく見つめ合ったあと、は背を向けた。 肩が小刻みに震えている。 「いつか、会えることを祈っています……ケイト」 「ああ。また会えればいいな。」 は、ふっと振り向く。 その顔は涙で濡れているが、今まで見せたことのない、優しい笑顔だった。 「また、トマト食べさせてくださいね」 ―エピローグ― 風は、彼女の背を押すように吹き荒れていた。 都会の入り組んだ迷路の中で、彼女を導くように。 やがて風は、教会の前で止んだ。 ――丁度良いから、ここで清めてもらおう。 観音開きの扉を開け、彼女は中に入った。そこには、神父とシスター、そしてもう一人……、彼女よりも年が少し上くらいの女性がいた。 彼女は女性に話しかける。 「こんにちは」 女性はフレンドリーに、 「あ、こんにちは」 と返事をする。 「お祈りでしか?」 彼女のおかしな丁寧語に女性は首を傾げるが、気にしないことにしたらしい。すぐに返答した。 「うん。あなたは?」 「ぼくは……ちょっと色々あって、聖水を」 「色々って……、何があったの?」 訊かれた女性は少しの間悩むが、「色々」を女性に話すことにした。 「……それは、ある森の魔物達の話です」 「……!」 女性は驚いて目を見張るが、すぐ笑顔で言う。 「それで、どうしたの?」 「はい。そこの魔物達は――」 「ゲイン様、そろそろ魔界へ……」 「いや、私はここに残るぞ」 「なぜ?」 「フッ……約束したからな、また会おう、と。奴は父母を養った後、ここに戻ってくるようだ」 「……本気ですか」 「本気さ。大丈夫、彼女は私の下僕として教育してから吸血鬼にするつもりだからな」 「そういう問題では」 「コルセット。君にもいつかわかるさ。感情があるのならばな」 「……。私に感情はありません。私は」 「そのセリフはもう聞き飽きたよ。……ジョセフ、出口の開く期間と入り口の開く期間が近くなったならば知らせてくれ。 私ではなく、にな」 ――また会う日まで、さようなら。 UMI様、ご投稿有難う御座いました!! |
2005.4.25 UP END